うちの犬は本当にうちの犬で幸せなのか。
犬と暮らす人……特に老犬と暮らす人は常にその心に刺さった小さなトゲのようなモノが痛む事は多かれ少なかれあるはずです。
犬は人間の言葉を話すことはありません。
けれども、全力で犬と向き合ってきた人たちなら知っているはずです。
言葉を使って犬と意思の疎通をはかることはできませんが、他のあらゆる感覚を使って犬と意思の疎通が確実にできるということをです。
それなのに何故でしょう。
我々犬と暮らす人間は時折、「自分の犬は果たして本当に自分と暮らすことを最高に幸せだと思ってくれているのか」という疑問にとらわれてしまうことがあるのです。
その原因は、犬が「幸せだ」という言葉を発しないからに他なりません。
当然、ほとんどの飼い主さんはわかっているのです。
自分の相棒から発せられるのはいつも大いなる愛情と幸福感で、それに疑いの余地もない事を。
それなのに、どうしても心に刺さったその小さなトゲを抜く事ができないのです。
不安は確実に相棒にも伝わりますし、そしてなにより、相棒と意思の疎通をするための大切なアンテナを鈍らせてしまう原因にもなります。
安心と安全は違うもの
我々は言葉によって何を得ようとしているのでしょうか。
本来、「言葉」は大切に扱われなければならないものです。
人間という生き物が相手に自分の意思を伝えるとても重要な手段だからです。
ここでいう「大切」とは、よく選び、考え、自分の心を差し出すつもりで相手に渡さないといけないという意味です。
けれども現代ではこの言葉という意思の伝達がうまくいかない事が多々あります。
その言葉の裏側や相手の事情を考えずに差し出されるものが多くなっているからです。
我々人間は、安心を求めてしまいます。
けれども安心は本来の解決ではありません。
自分が安心したからと言って、そのまま安全に繋がるわけではないのです。
むしろ、安心してしまって注意を怠ると安全からは遠ざかります。
そもそも言葉だけで得られるものはほとんどの場合は安心です。
その言葉に心や意思が乗っていなければ、安心だけで終わってしまいます。
犬が幸せかどうか知りたいというのは、自分が安心したいということではないでしょうか。
犬の幸せのために日々死ぬほど考え、共に幸せに暮らそうと努力をすれば、犬は必ず幸せに近づいていくはずです。
それだけで良いはずなのに、「うちの犬は幸せなのか」と疑問に思ってしまう事は、自分が安心したいからなのではないでしょうか。
ですから、本来は、毎日犬の幸せのために生きていればそんな疑問にとらわれることはないはずなのです。
しかし、やはり人間は安心したいものです。
正確な安心は決して悪いものではありません。
不安から解放される事は人間にとって命題でもあります。
犬は人間の言葉を使いません。
「うちの犬は幸せなのか?」という不安。
この不安から解放される方法はたった一つです。
犬から、「幸せ!」というメッセージをきちんと受け取ることです。
言葉だけで括ってしまうとアンテナの感度は鈍る
言葉というのは「それ」を「それ」であると認識するために括るものです。
卵は誰にとっても卵ですが、それを「白い球体」と括ればそれは球体ですし、「命」と括ればそれは命です。
しかし、それを卵という言葉で括っているので誰にとっても卵なのです。
しかし、その括る時の「想い」は人それぞれです。
卵の話をする時に、白い球体という「想い」で卵を括っている人と、命という「想い」で括っている人では当然話しはズレてきます。
自分と同じ想いを乗せてその言葉を使っているかどうかというのはわからないのです。
ですから、我々が対話をする時、相手の「想い」をキャッチする必要があります。
言葉だけに頼ってしまうと、この「想い」に対する感度が鈍ってしまいます。
言葉を使わないものや、母国語ではない言葉を使う人たちとの対話には、必ず「想い」をキャッチするアンテナが必要です。
そのアンテナの感度が鈍ってしまうのです。
我々の相棒は犬です。
ですから言葉を使った対話は、人間のようにうまくいきません。
「想い」をキャッチするアンテナの感度はいつもフルチューンでなければなりません。
気づくこと。
それがとても大切な作業になります。
飼い主さんの心をいつも穏やかに保つこと
気づくためにとても重要なことは、周りの雑音をできるだけ少なくするという事です。
心を穏やかに保たなければ、気づける範囲を広く持つことはできません。
いつも不安な事ばかりに気がいってしまうと、自分が安心することが目的になってしまいます。
安心するという事は、相棒が安全に過ごす事とは別の問題です。
そして、心を穏やかに保つ事と、安心するという事もまた別の問題なのです。
相棒との対話を楽しむために必要なのは、心を穏やかに保つ事です。
心を穏やかに保つと、いろいろな事に気づきます。
見上げた空の色がいつもと違っていたり、道端に知らないうちにタンポポが咲いている事に気付いたり、日々のちょっとした変化に気づきます。
もちろん自分の相棒である犬に関しては言わずもがなです。
そして気づくのです。
犬はいつもその関心を、我々に向けてくれています。
そしてちょっとした変化にも気付いてくれます。
それが対話になります。
あれやこれやと他の事も考えなければならないのが人間ですので、人間が心を穏やかに保つことはなかなか難しい事ですが、それでも、日々の生活の中でちょっとした隙間時間に心を穏やかに保つ時間を設けて、犬との対話を楽しんで欲しいと思います。
犬も人間も笑顔の元はそこにあるからです。
簡単な呼吸の仕方で犬との繋がりを感じる
自分の心が穏やかかどうかなんていうものは、案外自分でわからないものです。
しかし経験上、何か一つのものに集中しているとき、ストレスのようなものはとても感じにくく、心が穏やかであるように思います。
我々は興奮した時に深呼吸をしますが、この深呼吸は案外、心を落ち着けるのに即効性があり、ふだん意識しないものであるが故に、意識するとスッとその事に集中できます。
そして何より、呼吸に集中した後、相棒に集中すると、相棒の色々な事に気づきます。
柔らかくゆっくりと自分の肺が膨らみ、空気が取り込まれていくのを感じた後、またゆっくりと自分のイライラを吐き出すように空気を吐きます。
これだけで、たったこれだけでかなりの確率で、心を穏やかに導けるのです。
人がイライラしていると、犬の本当の気持ちにはなかなか気づくことができません。
一日に一度、1分でもいいので、深呼吸をしてみてください。
自ら気づくという事の重要性
我々人間は強いストレスを感じていると直感力や判断力が落ちるそうです。
前頭前野という部分の反応が鈍くなるらしいのです。
直感力や判断力は犬と暮らす上ではとても大切な事です。
「自分の犬は幸せなのか」という疑問の答えも、そこにあるからです。
人の意見や常識も時には大切なものですが、大切な相棒に関してのあらゆる判断をくだすのはいつも飼い主さんです。
そのためには飼い主さんは色々な事に自ら気づく必要があります。
良い事も悪い事も素直に受け止めるためには「自分で気づく」のが一番早くて正確だからです。
そのためには心を穏やかにし、日々の生活の中でちょっとした幸せに自ら気づき、それをきちんと受け止めていくのが近道です。
犬はその手伝いもしてくれます。

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